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奇妙な音楽の旅~奇妙トラベル スペシャルインタビュー/ 後篇 Interview text by 磯部涼 ryo isobe
2012.08.03 MEDIA INFO

奇妙な音楽の旅~奇妙トラベル スペシャルインタビュー/ 後篇 Interview text by 磯部涼 ryo isobe

“ブルースもなにもかもごちゃまぜに”なった『桜富士山』の中心にあるのが、奇妙礼太郎のヴォーカルだ。何を聴いても何かを思い出す時代にあって、彼の歌声もやはり、偉大な先達を思い出させてくれる。しかし、そのたくさんの名前の向こうには、唯一無二のブルースがある。それを剥き出しにするには、彼はシャイで、粋過ぎるが、押さえ込むには、抱えているものが大き過ぎる。その鬩ぎ合いが、グッとくるのだ。
インタヴュー後半、「朝から呑み続けている」という彼がようやく口を開いた。天才的なシンガーによる、ブルースについての哲学的考察をどうぞ。

※前半はコチラ!
奇妙な音楽の旅~奇妙トラベル スペシャルインタビュー/前篇
Interview text by 磯部涼 ryo isobe

――アルバムを買ってくれたひと、買おうかと思っているひとにひと言。

奇妙礼太郎(以下奇妙):アルバムを聴いて、「買わんかったら良かった」と思ったひと、おれが金返すんで、電話下さい。080-XXXX-XXXX。よろしく!

――それぐらい自信があると。

奇妙:自信はないですね(笑)。 電話が殺到して、お金がなくなる危惧しかないです(笑)。もちろん、手伝ってくれたひとの音は最高なんですけど、自分の残した声とか詞とかはまったく好きじゃない。それはいつもそう。CDを出す度に落ち込みます。

――つくり手ならではの感情なんでしょうね。

奇妙:まぁ、CDはCDですからね。「明日、死ぬかもしらんのにCD聴いてる場合ちゃうけどな」って思います。それよりも、ライヴの現場でほんまに何が起こってるのか観に来てくれるひとの方が信用出来るっていうか……。

――逆に言うとはアルバムは奇妙さんが死んでも残るわけですよね。

奇妙:僕が死んだあとのことはどうでもいいんです。僕には関係のないことなんで。

――でも、死んだひとのレコードもいっぱい聴いてきたでしょう? それに影響を受けてきたでしょう? アルバムの最後の曲「スキット音頭」で色んなミュージシャンの名前を挙げているように。

奇妙:それは……「自分が生きているうちにそういう体験をさせてくれてありがとう」とは思うんですけど、「自分が死んでもおれの歌聴いてな」みたいな気持ちはまったくないです。

――うーん……では、話を少し変えると、影響ということで言えば、奇妙さんはカヴァーをよくやりますよね。

奇妙:はい。カヴァーはほんま好きな曲しかやらないんで、やればやるほど辛い。

――またそんなこと言って(笑)。

奇妙:そういう曲って、元の歌い手の方にとっても大切な曲なわけじゃないですか。それを歌っていいのかなとも思うし、オリジナルには敵わないとも思うし、ライヴでそのひとが、その曲をどんな時に使うとか、そこまで考えると深過ぎて……。

――このアルバムには松田聖子「SWEET MEMORIES」のカヴァーが収録されています。

奇妙:聖子さんやったら、「SWEET MEMORIES」は、めちゃくちゃ大事なタイミング……例えばディナーショーで、皆がご飯を食べ終わって、集中して聴いている時にばーんっとやるわけですよ。

――キター!っていう。

奇妙:
そのタイミングを絶対外さへん。でも、僕、聖子さんのライヴを観たことないんですけど……。

――えっ(笑)。

奇妙:今年中に絶対、観に行ってみたい。あ、永ちゃんのライヴも!

ーー好きなんですね。

奇妙:僕、あんな凄いひといないと思うんですよ。凄過ぎて笑ってしまうというか。

――凄いものって笑っちゃいますもんね。

奇妙:おれもほんま、そう思います。

――パロディにして嗤うひともいるけど……。

奇妙:凄いからパロディにされるんですよ。

――奇妙さんもモノマネされそうだな。

奇妙:いやぁ、僕、特徴ないんで。

――そんなことないでしょう。

奇妙:好きなひとの真似をしてるだけです。僕なんか、何のオリジナリティもないですよ。

――奇妙さんの歌って、確かに色々なひとに似ているけど、同時に奇妙さんでしかないとも思いますけどね。

奇妙:そう言ってもらえると嬉しいんですが。

――今回のアルバムも、聴いていて、忌野清志郎を思い出したり、真島昌利を思い出したりするけど、それも含めて奇妙さんの世界観で。

奇妙:普通に思いっきりやってたら、そういうことになるのかもしれませんね。でも、いま名前あがったひととかも、絶対的に好きなんで。それを聴いてきたからこそ、今の自分がある。

――永ちゃんもね。

奇妙:そうです。ひと前であんなに命燃やして、それをあんなにたくさんのひとが観に来るなんて、絶対に凄いひとですよ。

――奇妙さんもライヴでは命を燃やしているでしょう?

奇妙:はい。僕は、もしお客さんがゼロ人やったら何もせんと帰りますけど、ひとりでもおったらその場で死んでもいいっていう気持ちでやっています。笑ってくれてもいいし、面白くなかったって感想でもいい。全員に、「観てくれてありがとう」って言いたい。僕としてはただ思いっきりやるだけ。生きてる中で……ああいう時間っていうのは他に思い付かないです。

――ライヴは掛け替えのない時間だと。

奇妙:一生ってすぐ終わってまうし。

――奇妙さんはいまおいくつですか?

奇妙:36です。

――その年齢だと、人生が折り返したっていう感じありますもんね。

奇妙:何て限られた時間なんやって思いますね。

――若い頃は無限だと思っていたのに。

奇妙:そう、そこはバンドを始めた頃とは考え方が変わりました。

――生きてる間にあと何回ライヴ出来るか。

奇妙:今は毎回「これが最後になるかもしれない」って思ってやっています。

――是非、まだトラベルのライヴを体験していないひとは足を運んで欲しいですよね。奇妙さんが聖子ちゃんや永ちゃんのライヴを観たいように、せっかく、同時代に生きているわけだから。

奇妙:そうですよね。みんな、ほんまたまたま同じ時代に生きてるんですもんね。ビートルズの曲も凄いと思うんですけど、同じ時代に生きてないから本当のところは分からないし、オレはオレやしっていう気持ちもあるんですよね。生まれてきて死んでいくっていう意味ではみんな一緒。生きている間に、ただ、おもクソやるっていう。でも、案外、それを忘れているひとが多いような気がするんですよ。

――人生が有限であることを?

奇妙:一生って一回しかないし、今も一回しかない。男子だったら70年をポンと与えられるわけじゃないですか。それを、「お前の好きにしていいんだよ」って言われてるのに、気付かないひとがいる。1秒1秒が取り返しがつかないんだから、他人のために使っている場合じゃない。最近、よくそう思います。

――それに気付いてから人生が始まる、という感じはありますよね。

奇妙:オレもそれに気付いたのは最近なんですけどね。まぁ、みんな好きに生きればいいんです。「オレはこっちに行くけど、もし行くやつおったら、一緒にいこうや」ぐらいの感じ。

――ただ、お客さんにもどうせ聴くなら、真剣に聴いて欲しい?

奇妙:そうですね。ダラダラ聴くのも自由ですけど、「オレは死ぬ気でやってんねんで、お前はどうだ?」とは思う。

――トラベルのライヴは楽しいですけど、それだけじゃないと。

奇妙:
オレたちは“ハッピーな昭和歌謡ロック”なんかじゃないです。今日、死んでもいいと思って舞台に上がってるし、一緒に死んでもいいと思ってくれてるひとが上がってくれてるし、「そういうものを自分らは観てんねんで」っていう気持ちはあります。

――でも、話を戻すと、ライヴは目の前のひとにしか届けられないけど、アルバムは凄く遠いひとのところにも届けられるじゃないですか。

奇妙:そうなんです。

――そのひとがライヴに来てくれたらいちばんいいのかもしれないけど、色々な理由で来られなかったとしても、そのひとにトラベルの片鱗が届いて、そして、そのひとの中で膨らんでいくわけでしょう。

奇妙:自分が好きなロックンロールのアルバムのことを考えると、その良さは凄く分かります。レコードをかけると、悶々としてたこととかどうでもよくなるぐらい、そっちの方がぶっ飛んでるわけじゃないですか。

――現実逃避のために聴いたレコードの方が、クソみたいな現実よりよっぽどリアルに感じられるという。

奇妙:そうやって助けられたことは何回もあるし、そのおかげで今、生きていられているのかもしれない。だから、さっき「CD聴いてる場合ちゃう」って言ったことは……ほんと、すいませんっていう感じ。

――ははは!

奇妙:ちょっと……泣きそう。

――奇妙さんがレコードに救われたように、ひとを救うアルバムだと思いますよ。

奇妙:
友達でもないひとにこんな話をするなんて、酔っぱらってないと無理やし、もうせえへん……もう終いにしましょう。

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