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奇妙な音楽の旅~奇妙トラベル スペシャルインタビュー/前篇 Interview text by 磯部涼 ryo isobe
2012.07.18
MEDIA INFO
「ブルースもなにもかもごちゃまぜにしてしまう/It’s Show Time !!!」―いま日本でいちばんスウィートでセクシーで、しかし、ちょっとだけ捻くれたシンガー、奇妙礼太郎率いるトラベルスイング楽団の、P-VINEからは初のリリースとなる『桜富士山』 sakura fujiyama は、そんな、冒頭の宣言通り、オールドタイミーだが、掛け替えのない今この瞬間を命の限り楽しみ尽くし、哀しみ尽くし、愛し尽くす、素晴らしいパーティ・アルバムだ。関西屈指のライヴ・バンドとして知られ、あるいは、クボタタケシを始めとするDJたちのプレイを通して認識している人も多いだろうこのバンドが、本作でレコーディング・アーティストとしても評価を高めることは間違いない。傑作を前にインタヴュアーとしても腕が鳴るものだと勇んで出掛けたのだが……待ち合わせ場所に現れたトラベルスイング御一行はもう10数時間呑み続けているとかで、既にへべれけ。奇妙礼太郎に至っては口も回らないような状態なのに、さらに酒や肴を求めてテーブルの周りをウロウロ。まぁ、あの愉快なアルバムをつくったひとたちだと思えばこれも納得……と気を取り直して、まずは、辛うじて話の出来るリーダーでベースのPEPE安田、ホーン・アレンジを手掛けるトランペットの山藤卓実、そして、テナー・サックスの田中ゆうじにレコーダーを向けた。
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奇妙な音楽の旅~奇妙トラベル スペシャルインタビュー/ 後篇
Interview text by 磯部涼 ryo isobe
PEPE安田(以下安田):さてさて、何の話をしましょうか? それによってモードを変えますんで。
――このアルバムでトラベルのことを知るひとも多いと思うんですよ。そのためのガイドになればいいなと。
安田:なるほど。じゃあ、真面目に話した方が良さそうですね。
――まず、安田さんと奇妙さんの出会いは?
安田:お風呂屋さんです。
――えっ。
安田:たまたま横にいたひとだったんです。
――へぇー!
安田:それが、体を洗うタイミングと、風呂に入るタイミングと、上がるタイミングと、服を着るタイミングが全く一緒だったんで、思わず声をかけて。
――ちなみに、どこの銭湯ですか?
安田:それは……あとで考えていいですか?
――ははは!
安田:あっ、違いました、思い出しました、ニューヨークです!
――ニューオリンズではなく?
安田:間違いなくニューヨークです!
――はい、それで。
安田:僕がチケットをなくして帰れず困っていたら、たまたま知り合った奇妙君が、路上で歌ってお金を集めてくれたんですよ。
――いい話ですね。
安田:帰国後、その恩返しとしてトラベルを……。
――ちなみに、ニューヨークというのは入浴からの連想ですか?
安田:あっ、すいません、僕、パスポート持ってませんでした!
――真面目なモードのはずでは……。
安田:ははは。でも、実際、よく覚えてないんですよ。奇妙君にふらふらーっと付いて行ったらいつの間にかここにいたという感じで。
(奇妙が刺身を取るために近付いて来る)
――あ、奇妙さんはアニーメーションズというバンドもやってますよね。
安田:あの楽しいバンドな。
奇妙礼太郎(以下奇妙):楽しくないわ! 1メートル以内に近付いたら絶対怪我するバンドです。客が前に来たら、知り合いだろうが、知り合いじゃなかろうがどつき倒しますから。とにかく、手が届く範囲のやつは全員どつく。
安田:いちばん前の男とディープキスしてたの見たことあるけどね。
――どつくのと反対じゃないですか!
奇妙:そらもう一緒です。僕にとってどつくのとキスするのは。なはは。
山藤卓実(以下山藤):トラベルでもやってたじゃん、ディープキス。
安田:やってた(笑)。
奇妙:口があったら舐めるっていう……犬や。
山藤:僕が奇妙君と会ったのは、アニメーションズにトランペットで参加してくれって言われて……その前から知り合いではあったんですけど、具体的に何かを一緒にやったのはそれが最初ですね。印象はずっと変わらない。「あぁ、奇妙君や」という感じ(笑)。みんな、それに惹かれてるんじゃないかなぁ。
安田:ちなみに、山藤さんとの出会いは覚えてますよ。山藤さんが彼女と知り合って、童貞を捨てたときでしたから。
山藤:その話、いらないでしょう(笑)。
安田:……あっ、寝てる!
(奇妙、机に突っ伏して潰れている)
――おつかれさまです……始まったばかりだけど。で、安田さんは平行してしゃかりきコロンブスというバンドでも活動してきたと。
安田:はいはい。今はワンダフルボーイズに改名して、『桜富士山』と同時に『ビューティビューティビューティフルグッバイ』っていうアルバムが出ますよ。
――トラベルのメンバーは古い付き合いなんですか?
安田:いや、キャリアが長いひともいれば、30で楽器を始めたひともいるから、もうひとそれぞれですよ。奇妙君と山藤さんは10年以上知ってるけど、田中君に関しては去年、渋谷<WWW>のライヴ当日に初めて知り合いましたし。
――当日?!
田中ゆうじ(以下田中):そうなんです。
安田:「サックスが足らん、ヤバい!」ってなった時に、偶然、そこにおったんですよ。しかも、トラベルの曲をちゃんとYoutubeで予習して、さらにスーツも持っていたという用意周到さ。「じゃあ、やって!」とお願いして。ライヴ終わってから名前聞いたもんね。
田中:「改めまして、田中といいます」って(笑)。
――知らないひとがステージにいるという(笑)。
安田:頻繁にあります。
――田中さんはトラベルのファンだったんですか?
田中:そうなんですよ。ライヴをよく観に行ってて。
安田:田中君はLa Turbo(ラ・ターボ)っていうバンドをやっていて。まさか、あんなお洒落なバンドをやっているひとが……こんな歯並びやったとは。
田中:ははは。La Turboは凄くいいバンドなんですけど、こういうことを言ってもらえる雰囲気じゃなんですよ。それで、トラベルを観た時に、「僕、ここに入ったらもっと変われるんじゃないか?」と思って。
――自己啓発(笑)。
田中:いや、もちろん音楽的にも、です(笑)。
山藤:初め、職人さん(的なプレイヤー)やと思ってたもんなぁ。
田中:そのつもりだったんですけどね。安田さんに「トラベルは学園祭やから!」って言われて、「なるほどー!」と思って、やりたいようにやるようになりました。
――キーワードは学園祭?
安田:それはそれで大変なんですよ。だって、何年も学園祭を続けるとなると……。
――意味が変ってきますからね。『ビューティフル・ドリーマー』か単なる留年か……。
安田:昔は自分たちだけで楽しんでたんですけど、今はそれを目当てに来てくれるひとがいるので頑張ってやっているところもありますよ。
――レコーディングも学園祭ですか?
安田:いやぁ、レコーディングの姿は見せられないです。
――気になりますね。
山藤:……まぁ、和気あいあいと(笑)。
安田:あ、山藤さん、ええこと言うた。そう、和気あいあいと。でも、今回のレコーディングは前とは違ったな。
山藤:違ったけど、普通のバンドに近付いたわけでもないと思う。
安田:何せ、1週間で録りましたからね。ホーンは2日とか?
――あのパーティなノリはそうじゃなきゃ録れないですもんね。
安田:いやぁ、レコーディングの前日までに6曲しかなかったから、そんないいもんじゃないですよ(笑)。もう、ほんとドキドキしました。
――何で〆切がそんなにきつかったんですか?
安田:8月31日まで宿題やらへんみたいな、よくあるパターンです。山藤さんはホーン・アレンジを即行でやってくれて、ほんと凄いなと思いましたよ。普段は5回会うと、4回はイラっとさせられますけど。
山藤:気を付けようと思ってるんですけど……。
安田:その気を付けようとしてるところがさらにイラっと……。
――山藤さんがホーン・アレンジを手掛ける上で気を付けたことは?
山藤:何だろう、メンバーの入れ換わりが激しいんで、あまり凝ったことをせず、欠けているひとがいてもちゃんと聴こえるように、ということを心がけています(笑)。学生時代はビッグ・バンドをやっていたんで、スタートはそこにあるかな。その後、シンプルなアレンジは何かということを考えて、こうなっていきましたね。
――最後の曲「スキット音頭~ジャズはアメリカニューオリンズ」が、アルバムを象徴していますよね。「南京玉すだれ」の節回しで尊敬するミュージシャンの名前を挙げていくという。
山藤:灰皿を叩きながら(笑)。
安田:マイナスドライバーでね(笑)。あれは最後につくったんですよ。
――レコーディングの良い雰囲気が伝わってきました。
安田:でも、実はアルバムであれがいちばんダビングを重ねてる。
――そうなんですか? 一発録りかと。
安田:最初、太鼓を叩いてくれたひとが上手過ぎて、何かトラベルっぽくないと。それで、今度、僕が叩いてみたら、これが下手過ぎた(笑)。いい塩梅を探るのに苦労しましたね。
山藤:歌は奇妙君の即興なんですけど、いいですよね。
安田:ほら、奇妙君、起きて! アルバムについてひと言!
奇妙:ん……(起きる)。ええと、このろくれもらいあるばむを……。
――言えてないですね(笑)。
奇妙:あれっ、ああ、このろくでもないアルバムを買って、僕たちのろくでもない人生に貢献して下さい。
――呑み代のために(笑)。
奇妙:ただ、ライヴに来ないとほんまのことは分からないので。
(後半に続く)
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奇妙な音楽の旅~奇妙トラベル スペシャルインタビュー/ 後篇
Interview text by 磯部涼 ryo isobe