GLIMPSE グリンプス

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グリンプスのアルバム『Runner』は、ハウスやテクノにジャズやソウルの要素を織り込んだ、斬新で魅惑的な音楽で形成された傑作に仕上がった。DJ MagやMixmagでは既に取り上げられている『Runner』は、確実に年間ベストに入ることだろう。

あらゆるジャンルを探究し、知り尽くした上で、真似できない独自のサウンドに作り変えるグリンプスは、真の革新者であると共に、DJやプロデューサーの間でも高い評価を得ている。典型的なジャンル間のラインを敢えて濁し、絶えず音の再構築を試みる彼の姿勢は、どんなに頭の固いリスナーをも唸らせる。彼の初となるスタジオ・デビュー・アルバムは、ハウス・ミュージックに多大な影響を及ぼし、その基礎となった多くの音楽のエッセンスを捉えた、マジカルな作品に仕上がっている。

2000年以来、多くの作品を発表してきたグリンプスだが、その10年間を締めくくるのがこの『Runner』だ。ジャズの実験的な、そして即興性を感じさせながら、絶え間なくスパイラルするループと流動的なインストラメンタル・ソロが印象的な「Feel OK」と「I Know I Show It」。エスニックなヴォーカルでワールド・ミュージックの純粋さと戯れる「Alone Again」、そしてマリンバが力強いオープニング・トラック、「Walk Tall」。

シングルとしてリリースされた「If I Was Your Girl」のアルバム・ヴァージョンは豪華なヴォーカル・ハーモニーを伴い、その後に続くエネルギッシュな「Things To Do In Denver」は、共に荒っぽく、アーバンなエッジが効いた楽曲でありながら、絶妙なバランスを作り出している。また、常にアンダーグラウンドであり続ける『Runner』の終盤を飾るのはダブ・エレクトロニカ・トラックの「Enjoyable Employable」、火花を散るような「Thank You」、そしてファイナル・カーテン・コールは神秘的な領域を行く「Train In Austria」だ。

”僕は古い録音の、あの煙がかったローファイな美学にいつも惹かれてた。このアルバムではそういう雰囲気を捉えたかったんだ、暖かくて、リズミカルで、それでいて耳障りだったり押し付けがましくなく、願わくば何度も聴きたくなるような作品を”とグリンプスは今回のアルバムを振り返って説明する――”アーティストとして、できる限り正直であること、僕が影響を受けた様々な音楽、そして僕の音楽の感じ方、というのをこのアルバムで描写したかった。それに、思考と表現の狭間にある溝を、出来る限り縮めることを目指したんだ”。燃えるような魂を込めて、『Runner』はハウス・ミュージックの本質をも塗り変える。

去年一年だけでもカール・クレイグのPlanet E、Cadenza、Kindisch、それにBuzzin Flyからレコードをリリースしたクリストファー・スペロ(別名グリンプス)は、ここ数年間、アンダーグラウンド・ダンス・シーンで静かに沸騰し続けてきた。昔ながらのレコーディング手法を好む彼は、アナログ機材しか使わず、トラックは全て生で録音している。後に編集はするものの、こういった手の込んだレコーディングが、彼の音楽に即興性を与えている。”スタジオでの制作プロセスは、最終的に出来上がる作品に多大な影響を与えていると思う。アルバム制作を始めた頃は、またサンプリングで色々試したりしていた時期で、最終的には昔ながらのサンプリング手法を使うことにしたんだ、不完全なところも敢えて残してね”。

グリンプスの音楽は、彼が昔から熱中していたブルースやジャズに大きく影響されている。それは、彼の音楽に内在する普遍的な、ソウルフルな魂という形で現れている。ロンドン、ベルリン、ロンドン、という引越しの最中で生まれた『Runner』は、彼の新たな家族の誕生を印付けるものでもあった。”アルバムで聴こえる背景の音の多くは、ツアー中や、ベルリンや、今住んでいるラッドブローク・グローブで行ったフィールド・レコーディングなんだ。僕には、そうやって今いる環境や状況というものを、曲に反映させることが、とても重要になったんだ。『Runner』では、僕をインスパイアした音楽や状況といったものを、感じ取るように聴いて欲しいんだ――それが電車の旅だろうが、ローファイ・エレクトロニカだろうが、ジャズ、ポップ、ダブ、テクノ、或いは一杯のモルト・ウィスキーだろうがね”。

クリストファーは2000年まで、ロンドン芸術大学 (セントラル・セントマーチンズ・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザイン)で彫刻を学んだが、常に心には音楽があり、その後音楽活動に専念するようになる。その技術を磨きながら、様々なエイリアスを名乗り(Attic、 Olek、Spero)、また自分の作品のみをリリースする名目で、Glimpse Recordingsを立ち上げた。早くから日本では彼の念入りな音作りが注目され、支持を得てきたが、ここ数年ヨーロッパやアメリカもそれに続いている。『Runner』は世界がグリンプスに注目のまなざしを向ける、触媒となることは間違いない。

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